エンゲージ~医療者と患者の関係が医療に影響する

エンゲージ~医療者と患者の関係が医療に影響する

エンゲージ(engage)と言えば、婚約、という和訳が出てくる方も多いだろうが、この言葉は、従事すると言う意味で医療の世界でも良く使われる。

日本の医療者と患者の関係

医療者と患者の関係と言うのは、その国の医療システムによって異なると思う。日本に病院はたくさんある。日本の病院は患者に来てもらわないことには、ビジネスとして成り立たない。医療事務の世界は詳しくはないので、偉そうなことを言うつもりはないが、病院、医院はそれぞれが利益を生むように医療を提供していく必要があるのは明らかだ。となると、患者は医療者のお客様になる。

病院側はお客様に来ていただかないと困るので、いいサービスを提供し、他の病院ではなく、自分の病院を選んでもらおうとするのが当たり前だ。典型的な例が、産科だ。マッサージのサービスがあったり、有名なホテルやシェフの食事をだし、お客をひきつけようとする。

この関係は、治療に影響したりもする。例えば風邪をひいて病院へ行くとしよう。医師が、”ただの風邪だと思うけど、念のために、お薬(解熱剤、抗生剤、抗ヒスタミン剤、ステロイド)を出しておきましょう”と言ったとする。患者は、親切な医者だと思うだろう。そして、家に帰ってから薬を飲むと、あっという間に症状が軽減し、”あの医者は、腕のいい医者だ。” と、なる。いい口コミを投稿したりするかもしれない。

実は、これは正反対なのだ。”ただの風邪”は、ウィルス性の感染が多く、抗生剤は効かない(もちろん、細菌性の感染症を併発した場合は別として)。こういった ”念のための抗生剤” が、実は抗生剤の乱用になり、どの抗生剤も効かない耐性菌、つまりスーパー細菌を作ってしまう原因の一つになるのだ。解熱剤は、まあ本人が楽になるように、と言うのであればOKとしよう。だが、抗ヒスタミン剤やステロイドは、はっきり言って必要ない。だが、結果的に良い口コミが入れば、お客は来るし、薬を使えばそれも儲けになるのだから、医療者としてはどうかと言うのはおいておくとしたら、ビジネスとしては申し分ないのだろう。

海外の病院と患者の関係

海外と一口で言っても、当たり前だが、それぞれのシステムは異なる。イギリスを中心としたイギリス連邦国などの国立病院では、国費で医療費を賄うというシステムをとっているところが多い。つまり、病院での治療は無料なのだ。病院の数はそれほど無いので、患者にあまり病院の選択肢はない。病院はたくさん患者を診ようと診まいと、個人が私腹を肥やすことはない。 病院側は、お客様に気に入ってもらうようにサービスを提供するのではなく、エビデンスに則ったガイドラインにそって治療をするのだ。したがって、不必要な薬は処方されない。不要な検査もされない。海外の病院には、しっかりとしたガイドラインがあるのは、このためなのだ。

ここまでなら聞こえはいいかも知れないが、日本とは違った問題がおこる。患者数が増えても病院が提供できるサービス、つまりベッド数や、手術、検査ができる許容範囲が決まっているので、緊急でない患者は、待たされることになる。それも、かなり長い間。そして、私たちの行っているサービスが魅力的ではないからか(そんなことは無いと思うが)、病院を避ける患者も少なくは無い。私たちは決して嫌われてはいない、と思いたい。

ここまできて、ようやく本題?に入る。医療者が患者に薬を飲むようにすすめるとする。これは患者に必要な薬だ。医者は処方箋を書いてあげることはできる。しかし、薬を飲むか飲まないかは、結局患者自身の問題なのだ。病院の診察に来るか来ないかも、訪問看護師が訪ねても、家にいるかいないかも患者が決めることだ。お金を払っていないから、医療の”価値”が理解しにくいのかも知れない。私たちがケアを提供するには、患者がこちらのサービスを受け入れる、つまりengage してもらう必要があるのだ。

Engage with the health services

せっかくの英語のブログだからして、engage を使った今日の例文でも挙げておこう。I would be grateful for your input to support engagement with health services. (患者が医療サービスに従事するようあなたのサポートがあればうれしく思います。)日本語にすると少しおかしいが、要するに、医者や看護師の言うことを聞いてくれ、と言うことだ。

薬を飲んでいるかどうかと言うのは、慢性疾患の場合は重要なことである。なので、当たり前だが、救急でも、フォローアップの外来でも薬を飲んでいるかどうかは聞かれる。薬を指示通り飲んでいるのは compliant 飲んでいない人は non-compliant with her/his medicationと言うような表現が良く使われる。ただ、この表現はなんか少し偉そう、というか、支持にしたがっているかどうか、的な意味に捉えられる。医師や看護師の説明を聞いて、自分の意思で飲んでいる、と言うような場合は adherent と言う単語が使われる。どちらも意味は同じなのだが、医師が偉そうな医療現場は好みではないので、私はadherent を使うようにしている。

医師は理由があって処方しているが、それを飲まない患者側にも理由はあるのだ。無理やり治療を押し付けるとか、飲まないなら病院に来なくていい、と医療者が言う時代は古い。患者の理由を聞いて、こちらの理由も説明し、お互いが納得するレベルでの医療を提供できたらと思う。でも、できれば、予約入れても来ないとか、留守電入れても返信無し、はやめてもらいたい。

さて、私はよく日本人に、”なんでこっちのお医者さんは、薬をくれないんですか?”とか、”こっちの病院は、ものすごく待たされますね。”と、言われる。私個人に言われてもどうしようも無いが、まあ、ここに書いてあることが主な理由だ。せっかくこのブログを書いているので、今度同じようなことを言われたら、このページのリンクを送ろうと思う。